佐賀県小学校教育研究会社会科部会研究概要

令和3年2月 14 日 研究部

研究主題の趣旨

「社会への関わり方を考え続ける」とは,児童が社会科学習を基盤に実生活・社会においても社会的事象に関心をもち,社会の在り方について考え,社会に働きかけ続けることである。佐賀県小社研では,「人・もの・こと」に進んで関わり,社会的な問題を自分との関わりでとらえる児童,未来志向でよりよい社会のあり方を考える児童,平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもち, 自ら社会に働きかける児童の育成を目指している。すなわち,社会的事象と出会って社会に関する疑問について調べたり,社会的な問題を把握してその解決のための方法を考えたりすることを通して, 自分自身も社会に支えられている一人であること,社会の一員としての義務や責任について自覚を深めていく姿である。

「社会への関わり方を考え続ける」児童の育成を目指すために,「社会をみつめる力」,「社会を考える力」,「自分と社会をつなげる力」の3つの力を育む。

「社会をみつめる」とは,社会を知り,社会がわかることを指す。児童が社会的事象と出会い,「どのように,どのような」と問い,事象の特色を理解したり,「なぜ,どうして」と問い事象の意味や関係を理解したりすることである。また,社会的事象について理解する中で,解決すべき社会的な問題を見いだし,その問題について現在の状況を把握することである。

「社会を考える」とは,社会的な問題の解決策を出し,検討することを指す。解決すべき社会的な問題を見いだした児童が,その解決に向けて「どうすればよいか」と問い,解決策をもち,自分の考えを説明したり,他者と議論したりすることである。他者と話し合う中で,複数の立場や観点が含まれるより社会性を帯びた選択・判断につながる。

「自分と社会をつなげる」とは,解決策について選択・判断し,実社会に発信・提案することを指す。社会科学習での学びを教室の中に留めるのではなく,実社会の人たちと対話しながら,社会に生きる一員として,複数の立場や意見を考慮して,選択・判断する。その選択・判断したものを実社会に発信・提案することで得られた評価に基づいて,再び社会の在り方について「どのように,どのような」「なぜ,どうして」「どうすればよいか」と問いながら,考えて続けていくことである。

研究の視点

視点1 単元づくりの工夫

実社会に目を向かせ,社会の仕組みや社会的な問題に気付かせるために単元づくりを工夫する。

①二段構造の学習問題を位置付けた学習過程

単元の学習過程にどのように学習問題を設定するかということは児童の学びに密接に結び付いてくる。そこで,単元の学習過程に2つの学習問題を設定する。1つ目は「社会をみつめる」こと,すなわち社会の仕組みを理解し,その課題(社会的な問題)を見いだすことを意図した学習問題である。2つ目は「社会を考える」こと,すなわち見いだした社会的な問題の解決を目指す学習問題である。佐賀県小社研では,前者を学習問題Ⅰ(「なぜ・どのように」型),後者を学習問題Ⅱ(「どうすればよいか」型)と名付けている。

学習問題Ⅰ・Ⅱを位置付けた学習過程では,一時間一時間が輪切りになったり,2つの学習問題がそれぞれ乖離したサイクルで終わったりするのではない。児童自身が学びの必然性を感じ,学習する中で社会的事象に対する興味・関心を高めていく。一時間一時間の授業や2つの学習問題(2サイクル)がつながる学習が展開される。児童の「学びの文脈」を重要視する学習過程とするために,学習問題Ⅰ・Ⅱを位置付けた学習過程には3つのパターンが考えられる。

図1 単元の学習過程3パターン

〔パターンA〕

単元終末に学習問題Ⅱを設定する。学習問題Ⅱの解決にあてる時間が短いため,よりよい解決策を他者と十分に比較・検討することは難しいが,個人で解決策を考える場を設定することで,社会的な問題への興味・関心を高める姿が期待できる。

〔パターンB〕

単元中盤に学習問題Ⅱを設定する。現在取られている解決策などの調べ活動を行い,よりよい解決策を他者と比較・検討していく。

〔パターンC〕

単元導入で学習問題Ⅱを設定する。単元を通して社会的な問題の解決を目指す学習を展開していくため,単元導入から終末まで一貫した目的をもって学ぶ姿が期待できる。学習問題Ⅱの解決のために社会的事象の意味や特色なども考えていくので学習問題Ⅰが内包されている。

②実社会に目を向けるための教材づくり

社会科学習では,教師が社会のどの場面を切り取って,社会的事象として児童に出会わせるかがポイントとなる。児童は学んだ社会的事象を窓口に社会の仕組みを理解する。そのために, 教師は社会的事象が児童に社会の仕組みを学ばせるのに適したものであるか検討すべきであ る。また,その社会的事象が児童にとって身近なものであるかも重要なことである。児童の学習意欲を喚起するためには,学ばせたいことをいかに児童に近づけるかが大切になる。

佐賀県小社研では,ポイント①「実社会を支える人に共感できるか」,ポイント②「社会の仕組みを理解できるものであるか」,ポイント③「実社会の課題となっていて,学ぶ社会の仕組みを含んだものであるか」の3つを考えながら教材化している。

視点2 思考を可視化する工夫

児童の選択・判断をより「社会性」を帯びたものにするために 思考 を可視化する手立てを工夫する。

①「立場」や「観点」の活用

立場や観点を明確にすることで,児童が社会的な問題について考える際の目の付けどころとなる。立場や観点を明確にすることで,複数の立場や意見を踏まえながら意思決定を行っていくことができるのである。

「立場」とは,社会的な問題の解決策について,そこに関わる人の見方で,どのような影響
があるか考えるために設定するものである。

資料2 「立場」の例

一方,「観点」とは,社会的な問題の解決策について,その解決策を複数の側面から捉えるための「窓」である。

資料3 これまでの実践で扱ってきた「観点」の例

「立場」や「観点」を設定することで児童はより多角的に社会の仕組みを捉えたり,社会的な問題について考えたりすることができるようになる。

②思考ツール

児童に社会の仕組みについて理解させたり,これからの社会について考えさせたりする際に他者との話し合いは必要不可欠である。しかし,その話し合いが音声言語のみの話し合いだと, 必要な情報を聞き逃したり,どこが大切なポイントなのか理解するのが難しかったりする。児童の思考を可視化したり,整理したりするための手立てが必要となる。

そこで,「思考ツール」を取り入れて「思考の可視化」を重視することにした。「思考ツール」とは,情報を可視化し,思考を方向付ける道具であり,「Xチャート」「ベン図」「レーダーチャート」などがある。「思考ツール」を話し合いに取り入れることには3つの効果がある。1 つ目は,情報の整理である。自分がもっている情報を見やすく整理することで,自分が何を根拠に考えているのか,どの資料とどの資料が関連付くのか,論理的思考を促すことができる。また,他者と情報を共有することもできる。2つ目は,話し合いである。自分と他者の考えの異同が明確になり,自他の論理について意見を交わす批判的思考が促される。3つ目は,児童自身また教師による評価である。児童は,思考ツールによって可視化された自身の考えを見つめ,自らの学びを自覚したり,自らの変容を実感したりする。教師も評価材として活用することができる。

資料4 社会科でよく活用される思考ツール(★)と思考のパターン(・)

ただし,これらの思考ツールは,前述の通り,あくまで情報を可視化し,思考を方向付ける道具に過ぎない。児童が思考したり,話し合ったりするのを補助する道具であり,「思考ツール」を使うことが目的化しないよう意識している。望ましいのは児童自身がどの思考ツールを使えば,自身の思考や話し合いの手助けとなるのか選択できるようになることである。教師は児童に「思考ツール」を使わせる際,その必要性と効果についてしっかりと検討することが重要である。

視点3 評価の工夫

児童が自らの学びを自覚し たり,社会に対する課題意識をもったりするために評価を工夫する。

①学習計画と自己評価(振り返り)

児童が主体的に学習に取り組むためには,調べ活動の目的(ゴール)を示すだけでなく,その道筋も児童自身が見通すことができるようにしたい。そこで,学習問題を立てた後に,「何を知りたいか」「どんなことを学びたいか」と問いかけ,学習問題の答えにつながる疑問や学習問題に関する既存の知識を用いて学習計画を立てさせる。

一方,単元終末の「振り返り」では,単元を通して社会についてどのようなことを学び,自分自身が学んだ社会的事象とどのような関わりがあるのか,外部からの評価を受けてどのような課題意識をもったかという単元の内容に関するものや,その単元の学習を通してどのようなことができるようになったか,自分自身の考えがどのように変わったかなど,自己の変容に関するものを重視する。

②第三者とのやり取り

児童が社会的な問題の解決に向けて,保護者や地域住民,専門家,行政などと話し合ったり, 考えたことを社会に発信や提案をしたりすることで,第三者からの指導と評価を受ける場を設定する。提案文の他に意見文や手紙,作品(パンフレット,ポスター,新聞)などの方法で発信・提案することが考えられる。それらを教師だけでなく第三者からコメント等をもらい,児童へフィードバックするのである。第三者からコメントをもらう際には,児童の考えた解決策の良い点, 改善すべき点について示して頂いたり,新たな観点を与えて頂いたりする。提案することによって実社会の人々の考えを聞き,児童の理解がさらに深まるようにしたい。

このように,第三者からとのやり取りを設定することで,自分たちが気付かなかった 観点や立
場に応じた 考え方に気付き,自分の考えを見直すことができる。何より児童自身が社会 とのつな
がりを実感し ,社会の一員 としての自覚を高めることが期待できる。

図2 課題意識をもたせる単元の終わり方(第5学年「米作りのさかんな地域」)

このように,単元終末で「社会的な問題の解決策等」を関係機関に提案し,コメントをもらい, それを基に自分の提案内容や提案という方法(啓発・発信等)を見直す場を設定する。そして, 本単元の学習内容と関わる新聞記事などを紹介し,社会で起きている様々な問題や自分たちだけでは気付くことのできなかった「観点」や「立場」に気付かせて単元を終了するのである。このようにして課題意識をもたせて単元を終了することで,児童が実生活・社会においても社会的事象に関心をもち,よりよい社会の在り方を考え,社会に働きかけるようになることが期待できると考える。